ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Okul Tıraşı 弟分の守り手

トルコ映画 (2021)

映画製作地トルコのアンタルヤ・ゴールデン・オレンジ映画祭で作品賞、脚本賞、編集賞、ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を始め、アメリカ、スペイン、イラン、イスラエル、ロシアなどの映画祭で計16の賞を獲得した作品。監督のフェリト・カラハン(Ferit Karahan)は、1993年から自分が入った地域寄宿小学校(YİBO)を舞台に、完全なフィクション映画を作り上げた。映画そのものの時代設定は、時代を特定できる唯一の手掛かりが 2007-2008年型のルノー・シンボル〔トルコで製造されたルノー・クリオIIベースのセダン〕なので、1993年ではない。買ったばかりの新車ではないとすれば、2010年くらいの設定か? 映画では、トルコの東アナトリアの人里離れた雪に埋もれた寄宿学校(ロケ地は、下の地図に赤い印の付いたBahçesaray村)で、一人の生徒が昏睡状態になる。原因を作ったのは、シャワー室の監督担当の教師と、監督生の意思疎通の不味さで、外気温マイナス35度という極寒の夕方に罰として冷水を15分も頭から被らせたこと。寒さに凍える少年メモを、同室のユスフが助けてやろうとした善意の行為が、結果的にメモを昏睡状態にしてしまう。それがバレたらどのような折檻が待ち受けているだろう? その恐怖がユスフを、目立たなくて控え目な責任回避の行動に走らせる。その結果は、複数の教師、学校の使用人、上級生の間で責任のなすり合いを生む。このストーリーのコンセプトは、監督のインタビューによれば、「恐怖から生まれた嘘が、実は抵抗の一形態」であることを示そうという意図のもとになされた。脚本は練りに練られ、“少年メモの守り手” として、何度も何度も雪の中を保健室と校舎を往復させられる “犠牲者” としてのユスフ〔それが、英語の題名(Brother's Keeper)になっている〕が、実は、厳罰として “頭髪剃り” を受ける〔それが、映画の原題(英訳すると、School Shaving)〕ような “善意の悪戯っ子” だったという逆転劇を、不自然なく実現している。

映画は、前日の夕方から翌日の午後までの1日の出来事を克明に追って行く。前日の夕方、週に一度のシャワーの時間、3人ずつに別れてシャワーブースに入った生徒達の1組が “争っている” という理由でシャワー時間の監督当番の教師によって咎められ、外気温マイナス35℃の真冬だというのに冷水を浴びることを強いられる。教師としては、自分がいなくいなれば、すぐに温水に切り替えるだろうと高を括って出した罰だったのだが、監視を命じた監督生が 最後まで見張っていたため3人は冷水しか浴びられなかった。3人のうちで一番年少のメモは、映画の主人公ユスフと同室(4人部屋)で、体が冷え切っているのですぐにベッドに潜り込む。そして、翌朝、メモは頭痛がし、ほとんど口もきけないほど弱っている。朝の当番の教師の命令でユスフはメモを支えながら雪道を歩いて校舎から離れた保健室に連れて行く。ここで、保健室の管理の不適切さが明らかになるシーンが複数挿入される。ようやくベッドに横になることができたメモの状態はさらに悪化し、意識不明になっている。保健室の監督生は全くの役立たずなので、ユスフは何とかメモを助けようと、朝の当番の教師を呼ぼうとするが、雑用が入ってなかなか来てくれず、ようやくその気になったのは、ランチが終わってから。教師はユスフを伴って校長に会いに行くが、ここでも手間取り、やっとのことで、教師がメモを直接見るが、そこで、ユスフが前日のシャワーの際の罰について話したことで、事件は脇に逸れ、冷水浴びをさせた責任の追及が始まる。それが終わり、メモを校長の車で病院に運ぼうとするが、スノータイヤを付けていないため動かすことができずに失敗。ここで、ようやく校長が保健室に来て、救急車の出動を要請するが、最初は出払っていて、次は除雪車が転覆し、なかなか到着しない。その間、譴責のために呼ばれていたシャワー室の監督生が、昨夜の3人目の教師の行動を摘発したため、今度は、3人目の教師に疑惑が集まる。そして、最後は、校長と3人の教師の間で非難の応酬合戦に。そこに、最後に呼ばれた、ボイラー室の作業員が、昨夜起きたことを証言し、事態は思わぬ方向に急展開していく。この逆転劇が、映画の実写場面の92%の段階で起きるのが、この映画の最大の山場。先に書いたように、映画の英語題名『メモ少年の守り手』から、トルコ語の原題『頭髪剃り』へと移行する瞬間だ。

ユスフ役はSamet Yıldız。詳細不明。これが映画初出演。カザン国際ムスリム映画祭で、最優秀男優賞を受賞〔イスラムなので、最優秀女優賞はない〕。しかし、映画を観ていて、そんな賞に値するような名演とはとても思えない。メモ役はNurullah Alaca。こちらも詳細不明。ほとんど昏睡状態なのでわざわざ紹介する必要はないのかもしれないが、監督インタビューでは両者の名が並列して出されていたので…

あらすじ

監督生の号令のもと、パンツの上からバスタオルを巻いたり、肩にかけた生徒達がシャワールームへの廊下をゆっくり進んでいる。角で監督生に石鹸のカケラを渡されたユスフは、シャワーブースが並んでいる通路を歩いていく(1枚目の写真)〔左右に各10個ほど並んでいる。各ブースは厚さ約10センチのタイル壁で仕切られ、各ブースは3人で利用する〕。ユスフが空いているブースに入ると、中では既に2人がいて、2人ともボウルで頭から水をかぶっている。ユスフは持って来たバスタオルをブース開口部の天辺の棒に何とか引っ掛ける〔背が低いので3度目でようやく掛けることができる〕。その時、監督生が通路の突き当りの壁まで行き、木の棒でタイルを何度も叩き、「アキフ、湯を出して!」と叫び(2枚目の写真)、壁の向こう側から「分かった」という返事がある〔ということは、ユスフが入った時に2人は冷水をかぶっていた〕。しばらくして、ユスフは、向かい側のブースから、「このバカ野郎! ボウルを寄こせ、でないと石鹸やらないぞ!」という怒鳴り声が聞こえたので、そちらに目をやる(3枚目の写真、矢印⇒壁があるので直接は見えない)。
  
  
  

「出てけ!」。「石鹸を水に入れやがって!」。「目が痛いよ。ボウルちょうだい!」。すると、大人の声で、「いったい何だ?」と厳しい声がする。3人は、その声に立ちすくむ(1枚目の写真、矢印がメモ少年)。右側の少年が、「先生、彼がボウルを独占して」と言い、メモの後ろの少年が、「石鹸が…」と意味不明の弁解。それを聞いた教師(ハムザ)は、なぜか、「お前たち、熱い湯は要らないみたいだな」と言い、監督生を呼ぶ。そして、ブースの中の3人に向かって、「冷水の蛇口を回せ」と命じる。水道の下のシンクに冷水が溜まる。「ボウルを冷水で満たせ。シャワーの時間が終わるまで、冷水だけだ。浴びろ」(2枚目の写真)。3人はお互いに冷水を頭から掛け合う(3枚目の写真)。「終わるまで、浴び続けろ」。教師は、監督生に 「続けさせろ」と命じると、その場を去る。監督生は、「急げ、もっと早いテンポで」と、途中で止めないか監視を続ける。
  
  
  

シャワーの時間が終わると、ユスフは同室のメモに自分のバスタオルを掛けてやり、庇護するように部屋まで連れて行く(1枚目の写真)。部屋は2段ベッドの4人用で、入口を入ってすぐ左右にそれぞれ2つずつロッカーが並んでいる〔部屋にドアはない〕。ユスフはシャワー室まで持っていった鍵でロッカーを開け、暖かいセーターを羽織る。寒さで凍えそうなメモは、服を着ると、すぐベッドに入り、毛布を被る(2枚目の写真)。寝室が並んでいる場所では別の教師(ケナン)が、「早く部屋に入れ!」と命じ、メモのことを心配したユスフが声をかけようと廊下に立っていると、理由も聞かずに、「とっとと入れ!」と命じられる。そして、全員に向かって、「消灯! 寝る時間だ!」と檄が飛ぶ。ユスフはロッカーの南京錠に鍵を掛け(3枚目の写真、矢印はメモ)。入口脇にあるスイッチで電気を消し、メモの反対側の下段ベッドに入る。
  
  
  

ここから先のシーンが非常に重要なのに、簡単すぎて分かりにくいところ。まず、夜中にメモがユスフを起こし、「今夜、一緒に寝ていい?」と頼む〔凍りそうに寒いから〕。「噂になる。ベッドに戻れ」(1枚目の写真)〔ホモだと思われる〕。「お願い、今夜だけ」。「ベッドに戻れ」。メモは、仕方なくベッドに入る。場面は、一面の雪山に囲まれた学校の遠景に変わる。そして、しばらくすると、外のドアをドンドン叩く音が重なる。部屋のシーンに戻ると、ユスフが窓を開けて下を見ている。そして、窓を閉めると、部屋の入口に向かう(2枚目の写真、矢印はメモのいないベッド)。ユスフが入口に立って見ていると、教師(ケナン)がメモを連れて廊下を歩いてくる(3枚目の写真、矢印はメモ)。それを見たユスフは、ベッドに入って眠っているフリをする。これが、複雑な “事件” の鍵となる場面だが、敢えて曖昧に編集されている〔2枚目の写真で、メモがいないことは、暗すぎて普通気付かないし、3枚目の写真で、歩いている少年がメモかどうかも分からない〕。そして、タイトルが表示される。「Okul Tıraşı」。Okulは学校、Tıraşıはシェービング、剃り。これだけでは全く意味をなさない。
  
  
  

朝、生徒達を起こす担当は、3人目の教師(セリム)。「起きろ! ベッドを整えろ! 教室に行け!」と指示する。ユスフは南京錠を開けて中から制服のような上着を取り出して着ると、まだベッドで寝ているメモに、「メモ起きろ」と呼びかける(1枚目の写真)。メモに気付いた教師(セリム)が中に入って来て、「なんでまだ寝とる? 起きろ!」と命じる。ユスフは、「先生、病気です」と擁護。教師は、「一晩中起きてたから、寝たフリしとるのか?」と言いながら、毛布を剥がし、「起き上がれ」と上半身を起こすが、メモはぐったりして、小さな声で、「頭が痛い。気分が悪い」と何とか言う。「大きな声で言え! 聞こえん!」(2枚目の写真)。メモは少しだけ大きな声で、同じ言葉をくり返す。それを聞いた教師は、ユスフに、「お前の友だちを保健室に連れて行き、薬をくれる人を探せ。そのあとで、クラスだ」と命じる。ユスフはロッカーから防寒着を取り出して羽織り、メモに靴を履かせる(3枚目の写真、メモは、最初にベッドに寝た時と違い、既に防寒着を着ている→前節の先生に連れられて廊下を歩いていた子も防寒着を着ていた→メモは、深夜に防寒着を着て、ベッドから抜け出していた)。
  
  
  

ユスフは、降りしきる雪の中、メモを支えて歩かせながら、保健室に向かう(1枚目の写真)。ところが、保健室までやっとの思いで着くと、鍵が掛かっていて開かない(2枚目の写真、矢印はドアノブ)。メモを保健室の前に放置して鍵を探しにはいけないので、再びメモを支えて校舎に戻る(3枚目の写真)。この先、ユスフは何度となく保健室と他所の間を行ったり来たりさせられるが、これがその1回目。
  
  
  

ユスフは メモを 校舎内の生徒の控室(休憩室)のような場所に連れて行と、壁にもたれかけさせ、「ここで待ってて、保健室の監督生を呼んでくる」と言い、部屋の真ん中でイスラム礼拝をしている監督生の所に行く。すると、メモの吐く音が聞こえたので、急いで戻り、持っていた布で吐いたものを掃除する(1枚目の写真、矢印)。それが済み、礼拝が終わると、監督生に理由を言い、保健室に戻る。ところが、鍵穴に吹き込んだ雪が凍って鍵が中に入らない。そこで、監督生は、「ここで待ってろ、すぐ戻る」とだけ言い残して走り去り、2人は保健室の前に取り残される(2枚目の写真)。しばらくして、監督生が熱湯を入れたポットを持って来て鍵の上からかける(3枚目の写真、矢印は鍵穴)。これを2度繰り返してようやくドアが開き、3人は保健室に入ることができた。しかし、そこは、粗末なベッドが1つと、空っぽに近い棚が1つあるだけの部屋。暖房も入っていない。監督生と2人がかりでメモをベッドに寝かせる。「どこが痛いんだ?」。「頭が痛いって」。そうは訊くが、監督生が持っているのはアスピリンだけ。それを、メモの口に入れ(4枚目の写真、矢印)、無理矢理飲ませる。監督生は、ユセフに、「お前は行って、朝食にありついて来い。俺が見てる」と言い、メモの前にイスを持って来て座る。
  
  
  
  

しかし、ユスフが校舎の方に歩いて行くと、雪の積もった校庭で校長の訓辞が行われている〔周囲の雪山が凄い〕。「州は君たちに寝る場所を与えた。十分な栄養も。週に一度シャワーを浴び、月に一度小遣いももらえる。なのに、不平たらたらだ! 君たちの年の頃、我々は毎日10キロ歩いて学校に通ったが、不平など言わなかった。君たちの立ち居振る舞いは100メートル離れた場所からでも、当校の生徒であると誰にでも分からねばならん。社会の良き模範となるのだ。君たちに代わりたいと願っている少年たちが何千人もいる。だから、君たちは規則正しく、かつ、懸命に学ばねばならん。この国のためになる市民になるのだ!」(1枚目の写真)。そして、校長は、寝室担当だった教師(ケナン)に、1人の生徒を前に連れて来させる。ユスフの前の生徒2人が、こそこそ話している。「あいつ、わざわざイスタンブールまで行ったんか?」。「ああ、売春宿にも行ったんだ」。そして、その生徒の頭髪の中央が、電気バリカンで帯状に削ぎ落されていく(2枚目の写真)〔丸坊主にするのではなく、あくまで罰として中央を帯状に剃る〕。映画の原題の「頭髪剃り」とは、最悪のことをした生徒にたいする最も重い罰だということが、ここで分かる。
  
  

集会が終わると、生徒全員が教室に行くよう命じられる〔ユスフは朝食を食べはぐれた〕。ユスフが階段を上がって行くと、その上の廊下では、眼鏡の教師(セリム)が棒を持って、「さっさと歩け! ベルが鳴ってから数分経つぞ!」と怒鳴り、生徒を走らせている。ユスフは廊下を突き当りまで歩き、寝室担当の教師(ケナン)が、4人の生徒を並ばせている所まで行く。教師は、生徒の1人からタバコの箱を出させると(1枚目の写真、矢印)、トイレで流して捨てるよう命じ、ちゃんと流したか監視し、戻って来ると、喫煙をきつく譴責(けんせき)し、顔を上げさせて全員の右頬を2度ずつ引っ叩く。4人が放免された直後、それまで待っていたユスフが、「先生、僕の友だちが…」と言い始めると、聞く耳を持たない教師は、「とっとと教室に行かんか!」と、強く命令する(2枚目の写真)。
  
  

1時間目は国語の授業。教師はまず全員の出席を取る。「メフメット・ソフマス」〔メモの正しい名前〕。ユスフが立ち上がり、「先生、保健室にいます」と告げる(1枚目の写真)。意地悪な級友が、「先生、メモは結核、ガン、肝硬変、破傷風、エイズ、はしか、腸チフス、ポリオです」と発言。生徒達が笑い、教師は、「ムタ、メモはお前ほどひどい病気じゃないぞ」と言い、再び生徒達が笑う。教師は、3行の短い文章をホワイトボードに赤いマジックで書く。そして、最初の1行、「Fazla canını sıkma(あまり気にしないで)」について、文法上どこが間違いなのかを生徒に訊く。最初に当てられた生徒は、「どこも間違ってません」と答える。この部分の英語字幕は、この文章が「I'll scare you to death again(私は、また、あなたを死ぬほど怖がらせる)」となっている。そして、「again」が入っていることが論理的におかしいと指摘するが、https://www.cokbilgi.com/ というサイトの「文法上の誤り」の例文の中に同じ文章が出て来て、そこには副詞の場所が悪く 「Canını fazla sıkma」と順番を入れ替えると正しくなると書かれている。教師の発音を聞いていても、正しい文章も、そのように聞こえる。なぜ変な英訳にしたのかは分からない。教師の話は2行目に移るが、その間、ユスフは前を見ずに、窓の方を見ている(2枚目の写真、矢印)。メモのことが心配でならないからだ。話が一段落し、教師は、「窓がどこか開いているのかな? えらく寒いな」と言いながら、窓まで行く。そして、全館暖房のラジエーターを触ってみて、「いつから 暖房止まってるんだ?」と生徒達に訊く(3枚目の写真)。「朝からです」〔これは重要な伏線〕
  
  
  

1時間目の授業が終わると、ユスフは保健室に行き、メモの様子を見る(1枚目の写真)〔監督生はどこに行ったのだろう? メモは1人で放置されていたのか?〕。心配になったユスフは、教師の控室のような場所に行き、眼鏡の教師(セリム)に、「先生」と声をかける。「何だ?」。「メフメットは、かなり具合が悪いんです」。「どのメフメットだ?」。「今朝、先生が保健室に連れて行かせた生徒です」(2枚目の写真)。「どんな具合だ?」。「吐きました」。「何か薬を与えたのか?」。「はい」。「それなら、私に何ができる?」。その時、別の生徒が入って来て、「先生、3階でケンカです」と言ったので、教師はユスフの件は放置して3階に向かう。
  
  

2時間目は地理の授業。女性教師はトルコの地図をホワイトボードに掛け、「私たちが どこにいるか、地図上で示せる人?」と訊く。半数ほどが手を上げる。当てられた生徒は、黒板の前に行くと トルコの西部を指し、「ここです」と全く間違ったことを言う。「私たちは、どの地方にいるの?」。「クルド地方です」。教師は、生徒が西と東を間違えた時には何も叱らなかったのに、今度の答えには敏感に反応する。「クルド地方なんて存在しません。東アナトリア地方です」と、生徒達全員に向かって強く言う(1枚目の写真)。冒頭の解説で書いたように、登場する車から2010年頃と推定すれば、同年6月19日にはクルド人武装組織(クルド労働者党 PKK)が東アナトリアの国境近くでトルコ軍を襲撃しトルコ兵11人が死亡、逆にトルコ軍はPKK戦闘員12人を殺害し、空爆も行った〔過去2年で最悪の事態〕。女性教師の発言は、こうした政治的状況を踏まえたものであろう。ここでもユスフは窓の外を見ていて(2枚目の写真)、今度はそれに気付いた教師に注意される。
  
  

これで午前中の授業は終わり、ランチ・タイム。金属トレイの3ヶ所に、食堂の3人のスタッフが順次料理をレードルで入れて行く。東アナトリア料理をトルコ語で検索すると、ボリューム感のある多様な料理の映像が見られるが、 金属トレイ3ヶ所の中身は、液体が2種類と、米料理のようなものだけ(1枚目の写真)。何れも肉とは縁のないものばかりで、校長のスピーチにあった「十分な栄養」とは、ほど遠いような… トレイの4ヶ所目の小さな区画に入れる物は、生徒達が自分で取るパン一切れ。ユスフの1人前の生徒は、眼鏡の教師(セリム)に呼び止められ、「何をトレイの下に隠しとる? なぜ余分のパンを取った」と訊かれ(2枚目の写真、矢印)、「満腹にならないからです、先生」と答え、叱られた上に食堂から追い出される。ユスフは自分の席に着くと、そのまま全員への配膳が終わり、全員が着席するまで、料理が冷めるのも構わず待たされる。全員が揃うと、教師が全員を立たせ、食事の前の祈りの言葉を大声で復唱させる。ようやく食事が始まると、ユセフは メモに食べさせようと パンを半分にちぎり、ポケットに突っ込む(3枚目の写真) 。
  
  
  

食事が終わると、ユセフは降りしきる雪の中を保健室まで行き、持って来たパンを小さくちぎってメモに食べさせようとするが(1枚目の写真)、朝よりは悪化し、昏睡状態に近いメモは全く食べてくれない。そこに監督生が入って来てメモの額に触り 「熱はないな」と言い、ユセフに 「お前、親戚か?」と訊く。「ううん、友だち」。「同じ村から来たんか?」。「ううん」。ユセフは、何とかしなくちゃと思い、外に出て校舎に向かう。すると、2人の教師(セリムとケナン)が玄関の外で話している。そこで、2人に向かって、「先生、メフメット かなり具合が悪いんです。話すことも、食べることもできません」と、窮状を訴える(2枚目の写真)。ケナン:「誰だ?」。セリム:「5年生だ」。そう言うと、セリムは、自分が対処すると言い、ユセフを連れて校長に会いに行く。行く手に校長の車ルノー・シンボルが停まり、ボンネットが開けられている。セリムは、「校長、生徒の一人が…」と説明を始めるが、その時、ガラスが割れて落ちる音がし、校長が見上げると、2階のガラスのなくなった窓に1人の生徒がいて、姿を隠す。校長は、「あの生徒を見つけて、連れて来てくれんか?」とセリムに頼む(3枚目の写真)。セリムが校舎に戻って行くと、校長は、ボンネットの中を調べていたボイラー係(マフムット)に向かって、「暖房はどうなっとる?」と尋ねる。「今、やっとります、校長さん」。「やっとる? 何時間も経つぞ」。「パイプに亀裂が入っとったのが、完全にブッ壊れやした。温水ボイラーは閉回路になっとるんで、パイプがやられると動かなくなるんです。前から、交換しなきゃって申し上げとりやしたでしょ」(4枚目の写真)。「もういい、修理に戻れ」。ボイラー係がいなくなると、会計士の男が、「校長、あなたの車、スノータイヤにしないと。これじゃ、冬の間、どこにも行けないですよ」と注意する。「そうかな? 交換が遅すぎたかな?」。「ええ。あなたは子供たちを乗せておられるので、問題が起きるとやっかいです。もしよければ、運用資金を使ってタイヤを交換できます。学校のバン用にスノータイヤを購入するという名目で」(5枚目の写真)〔小さな不正が平気で行われていることが明らかになる〕
  
  
  
  
  

そうこうしているうちに、セリムがガラスを割った生徒を連れて来る。校長は、「なぜ窓を割った?」と訊く。生徒は、「閉めたら割れちゃいました」と答え、その途端に、校長のビンタが飛ぶ。生徒は痛くて顔を覆う(1枚目の写真)。「私を見ろ! 手をどけろ!」。生徒が顔を上げると、もう一発。「私を見ろ!」。もう一発〔暴力的な校長〕。「ガラスを拾っておけ!」。生徒は、泣きながら雪の上に落ちている割れたガラスを拾う。これで、ようやくユセフの番が回ってくる。セリムは、「校長、生徒の一人が病気です」と、ようやく伝えることができた。「濡れたタバコでも吸ったんだろう」。「いいえ、そうではありません」。「なら、保健室に連れて行って、鎮痛剤を与えるんだ」。「とっくにそうしてますが、容体が悪化しています。医者に診せる必要があります」。これで、ようやく校長も本気になる。「なら、ムルタザに電話して (病院に)連れて行かせろ」。セリムは携帯を取り出すが、電波が届かない。それで、少し高い所まで歩いて行く。ユセフも後を付いて行く。階段を数段上がった所にある “建国の父” アタテュルク像の前で、セリムは電話をかける(2枚目の写真)。しかし、学校のバンの運転手のムルタザは、村にいて、学校まで戻るには時間がかかると答える。困ったセリムは、その間、ユセフに付き添わせようと、授業に出なくて済むよう許可を取ってくるよう命じる。
  
  

ユセフが玄関から中に入ろうとすると、床拭き係から、モップをかけたところなので、外で靴の裏をきれいにしてくるよう言われる(1枚目の写真)。ユセフは、雪の上で何度も足を踏んできれいにしてから、端っこを歩いて廊下に入る。そして、ノックしたのは教頭の部屋。教頭は他の教師(ハムザ)と会話の途中だったが、話が終わったところで、ユセフは 「セリム先生に言われて来ました」と言う。「それで?」。「僕の友だちが病気で…」。「だから?」。「そばにいたいんです。だから先生に許可を…」(2枚目の写真)。「許可が欲しいのか。授業を休みたいんだな」。すると、話の途中なのに、ハムザは、席を立ってドアを開けると、ボイラー係のマフムットに、ボイラーがなかなか直らないことに大声で文句を言う。そして、戻ってくると、教頭としばらくその話でもちきり。その間、ユセフは待たされる。ようやく2度目の話が終わり、教頭は、「名前は?」と訊く。「ユセフです」。「ユセフ、私には許可は出せん。なぜだか分かるか?」と、教頭なのに変なことを言い出す。「いいえ」。「勤務時間外だからだ。ハッサンに会いに行け」。ハムザ:「ハッサン先生は、村に行っています」。「なら、お前は友だちのそばに行け。学期の終わりになって無断欠席だと言われたら、私に会いに来い」(3枚目の写真)〔実に官僚主義的、かつ、不親切だ〕。こうして、ユセフは保健室に行き、メモのベッドの横に座る。監督生は 「お前がここにいるんなら、俺は授業に行くぞ」と言い、出て行く。
  
  
  

すると、入れ替わるように眼鏡の教師セリムが入ってくる。初めて保健室に入ってきたセリムは、「彼の様子はどうだ? 何か食べたか?」と訊く。「いいえ」。「切り傷や打撲傷はあるか?」(1枚目の写真)。「見ていません」。そして、額に触って、「熱はないな」。セリムは、部屋に置いてある唯一の棚(ほとんど空)を見て、飽きれたように引き出しを開けるが、そこにも、役に立たない薬が1種類あっただけ。一番下のドアは鍵が掛かっていて開かない。そこで、思わず 「このひどい保健室を何とか機能させるんなら、看護婦をちゃんと雇わないといかんな」と、ユセフに向かって言う(2枚目の写真)〔寄宿学校で、医療体制がこれほど低レベルなのは異常〕。「友だちの名は?」。「メフメットです」。セリムは、メモに向かって、大きな声で 「メフメット! 聞こえるか?!」と呼びかける。ユセフは 「先生、彼はもう話せません」と説明する。「彼の同室者を知ってるか?」。「僕たち、同じ部屋にいます」〔セリムは、朝のことを もう忘れている〕。「夜の間は正常だったか?」。「はい」。「切り傷や打撲傷はあるか?」〔さっきも訊いた〕。「見ていません」。そう言った後で、ユセフは、「ハムザ先生が 昨夜シャワー室で罰を与えました」と、告発する。「どんな罰だ?」。「冷たい水で洗わせたんです」。ユセフの言い方が、曖昧だったので、セリムは 「詳しく説明しろ!」と命じる。「メモと2人の友だちがふざけてました」(3枚目の写真)「そこにハムザ先生が来て、冷水の罰を与えたんです。3人は、シャワーの時間が終わるまで、冷たい水を浴びていました」。
  
  
  

セリムは、携帯でハムザにかけようとするが、当然通じないので、外に出て行く。すると、ランチの後でユセフがセリムと出会った場所にいるハムザを見つける。セリムは、近づいて行くと、「ちょっといいか?」と声を掛け(1枚目の写真、矢印)〔これだけ雪が降って寒いのに、なぜいつも外にいるのだろう?〕、ハムザを保健室に連れて行く。そして 、セリムはハムザに昏睡状態のメモを見せる。ハムザ:「この子がどうかしたのか?」。セリム:「風邪を引いたに違いない」。「どうして?」。「昨夜、冷水の罰を与えたって聞いたぞ」。「何てことない」。「おいおい、この天気だぞ」。「いつもの罰だ」。「外は零下35℃だぞ! 15分の冷水を浴びたら凍え死んでしまう!」。「凍死した奴なんかいない」(2枚目の写真)。「だが、意識不明だ」。「いいか、俺は、ガキどもを良く知ってる。背を向けたら、すぐに温水に切り替えるさ」。「最後まで冷水を浴びてた」。「まさか、そんなことあり得ん」。ここで、ユセフが割り込む。「先生、シャワーの監督生が、シャワーの時間が終わるまで見張ってました」と、再度告発する(3枚目の写真)。ハムザは、「俺は、そんなこと指示しなかった」とセリムに弁解する〔実際には、「続けさせろ」と言った〕
  
  
  

ユセフは、監督生を呼びに行かされ、2人して保健室に戻って来る(1枚目の写真)。ハムザは監督生を睨みながら、「昨夜、私は、冷水の罰を与えた」と口火を切る。「はい、先生」。「お前は、シャワーの時間が終わるまで監視していたのか?」。「はい」(2枚目の写真)。「誰が、監視してろと言った?」。「先生です」。ハムザは、「あの子は、意識不明なんだぞ、バカ野郎!」と怒鳴り、監督生を思いきり引っ叩く(3枚目の写真)。セリムは、携帯でムルタザに再度電話し、「どうなってる? 戻って来れないのか?」と訊くが、通信不良で会話できない。
  
  
  

セリムは、ユセフにメモがIDカードを持っていないか調べさせる。そして、ないと分ると、ベッドのある部屋まで取りに行くよう命じる。そこで、ユセフはメモが首にかけている鍵のついた紐を外し(1枚目の写真、矢印)、降りしきる雪の中を歩いて(2枚目の写真)部屋まで行き、メモのロッカーを鍵で開け、中からIDカードを取り出す(3枚目の写真)。
  
  
  

次の場面では、校長の車の後部座席にユセフとメモを乗せ、ハムザが運転席、セリムが助手席に座り、村の病院に連れて行こうとする。しかし、スノータイヤを付けていないので、スリップして動かない。助手席を降りたセリムはトランクを開けてタイヤチェーンを探すが、それすら入っていない。そこで、近くにいた生徒達が呼ばれ、セリムを加えた6人で車を押す(1枚目の写真)。それでも、タイヤが空回りするだけで車は1センチも進まない。セリムは、車での搬送をあきらめる。車の中では、ユセフがメモを暖かく包んで、抱いている(2枚目の写真)。ユセフが、フロントガラス越しに見ていると、セリムと 運転席を降りたハムザの間で言葉が交わされる。①雪をどけたらどうかというセリムの提案に対し、ハムザは、学内の道路全部の除雪は無理で、雪の下には氷もあって滑る、②タイヤチェーンを持っている唯一の男は休んでいるし、たとえあっても役に立つまい、というもの(3枚目の写真)。ルームミラーにユセフの顔が映っているが、彼はそのすべてを聞いている。
  
  
  

結局、病院行きはあきらめ、ユセフを車から降ろし、セリムがメモを両手で抱え、保健室に戻ることに。しかし、保健室には既に鍵が掛かっていて開かない(1枚目の写真)。ユセフは、「鍵を取ってきます」と言って走り出し、セリムは長時間1人でメモを持っておれないので、ハムザに一緒に持ってもらう。ユセフが、保健室の監督生を連れて来て、鍵が開き、メモはベッドに戻される。ハムザは 監督生に向かって、「どこにいた?」と訊く。「授業です」。「なぜ授業にいた? なぜ鍵を掛けた?」。「先生方が出たので、鍵をかけるべきだと」。「緊急事態だと思わんかったのか?」。「僕は 緊急事態には対応できません。アスピリンを渡すだけです」(2枚目の写真)〔この学校の機能不全は、100%校長のせい〕。そこに、初めて校長が入って来る。「車で行かなかったのか?」(3枚目の写真)。「いいえ。雪で立ち往生しました」。「この生徒は、いつからこうなのだ?」。「朝からです、校長」。校長は、メモに声をかけ、2人がかりで体を起こさせるが、メモが完全な昏睡状態だと分かると、自分の責任問題にもなるので、真剣に心配し始める。
  
  
  

監督生は、校長に、保健室内で唯一携帯の通じる場所を教える。それは、窓辺に置いたイスの上。校長は、さっそくイスの上に立つと、救急車を要請する電話をかける(1枚目の写真)。患者の年齢を訊かれた校長が、「10か11」と答えたのに対し、ユセフがすぐに「11」と言ったので、それがメモの年齢ということになる〔年の割に小さい〕。そして、意識不明だと伝えると、相手の女性は、メモを “舌噛み防止と気道確保” のため横向きにするよう伝える。電話の最後は、「ありがとう、待ってます」で終わる。校長は次に、ベキルなる人物に電話する。「やあ、ベキルか、今日は」「ありがとう、元気だ」という出だしからは、相手が校長と同格の人間だと分かる。そして、校長が、生徒の1人が意識不明で熱はないと伝えると、ベキルは食中毒の可能性を指摘する。相手は医者らしい。そこで校長はメモが最後に食べた物を訊く。ユセフは、昨夜6時の夕食はオクラと米だったが〔何と貧相な!〕、メモはオクラが嫌いなので米を食べただけだったと告げる。「吐いたのか?」。「はい、先生」(2枚目の写真)。「転んだか、ぶつかったことは?」〔急性硬膜下血腫を疑った〕。ユセフは首を横に振る。電話はさらに続く。「もう、救急車は呼んだ。だが、全部出払ってると言われた。助けてもらえないか?」。何らかの理由で断られ、「ありがとう。ベキル。さようなら」。電話が終わった後、校長はユセフに 「彼には、何か持病があるか?」と訊く。「知りません、先生」(3枚目の写真)。
  
  
  

その時、それまで黙っていた、シャワー室の監督生が、「先生、彼は、昨夜、ケナン先生がベッドまで連れて来た時、フラフラしてました」と、爆弾発言をする(1枚目の写真)。ハムザ:「何だと? どこから連れて来たんだ?」(2枚目の写真)。「知りません。半分眠ってましたから」。校長:「ケナンを、来させろ」。さっそく、セリムが携帯をかける。次のシーンで、ユセフが雪道を歩いているが、最初観た時は、ユセフがケナンを呼びに行かされたのかと思ってしまった。
  
  

ユセフが向かった先は、校内にある唯一の店舗〔生徒たちが、小遣いでお菓子を買いに来る〕。ユセフは、そこで、6個のチャイ〔小さなガラスのコップに入った紅茶〕を買い、こぼさないよう、慎重に階段を降りる(1枚目の写真、矢印)〔ここの教師は、生徒を小間使い扱いしている〕。そして、雪の止んだ雪道を歩いて保健室に向かう。ユセフが保健室に戻ると、寝室担当の教師ケナンは、もう着いていた。そして、メモの様子を見て、「彼に何が起きたんです?」と校長に訊く。校長は、「ケナン、君は昨夜 当番だったか?」と訊く。「そうです」。「その時、彼に何か問題は?」。「目が覚めたら、彼が起きてて、気分が悪いと言いました」(2枚目の写真)。「君は、昨夜遅く、その子をベッドまで連れて行ったのを見られてるんだ。彼に何をしてたんだ?」。「何を仄めかされてるんです?」〔児童虐待〕。校長と2人の教師が変な顔をしてケナンを見ている。ケナンは、誤解を解こうと、「私は、真夜中に、ドアをドンドン叩く音で目が覚めました。降りて行くと、彼がドアの外で震えていました。どこにいたのかと訊くと、ボイラー室でシャワーを浴びていたと答えました」。それを聞いた校長は、「ボイラー室でシャワーだと?」と驚く。セリムは、「ボイラー室には温水がありますから、少年たちは時々シャワーを浴びているようです」と、ケナンの発言を補佐する。校長は、「君は、いつからそのことを知ってたんだ?」と批判する。今度は、ハムザが、「校長、週に一度のシャワーでは困る子たちもいるのでは」と助け船を出す。校長は、話を戻し、「その子に理由を訊いてみたか?」とケナンに訊く。「訊きましたが、答えませんでした。すごく寒そうだったので、ベッドに入れてやりました」。この言葉に対し、今度はセリムが批判する。「当番を交代した時、教えてくれても良かったのに」。ケナンは、「何もかも報告してたら、いつ授業をすればいいんだ?」と反論。校長は、話を元に戻し、「この子は、どうやって外に出られたんだ?」と訊く。ケナン:「分かりません。全員が眠ったのをチェックし、ドアに鍵をかけ、私の部屋に行きました」。校長:「当番として、君は、一晩中、生徒たちに責任があるんだぞ!」。ケナン:「一日じゅう授業。夜じゅう当番。いったいいつ寝れば?! 私は機械じゃないんですよ!」。さらに、「私は教師です! 警備員じゃありません!」とも。
  
  

次のシーン。ユセフがボイラー係のマフムットの所に行かされ、「校長先生が呼んでます」と告げる(1枚目の写真)。マフムットが犬に餌をやっている間、ユセフはある物をじっと見ている(2枚目の写真)〔映画の鍵となる物体だが、この時点では、何を見ているか映らないので分からないし、この場面に意味があることも 観客は気付かない〕。一方、保健室の外では、部屋に中の緊張に耐えかねたセリムがタバコに火を点ける。すると、続いて外に出て来たハムザが、「喫煙は禁止だぞ」と言う。「構うもんか。1本取れよ。誰がここまで見に来る」。ハムザもタバコに火を点ける。「誰か見てるかもな」。「勝手に見させとけ」。ハムザは、「学校のバンがここにあったら、雪の中でも行けただろうに。そう思わんか?」と言って、悔しがる。セリムは、「チーズを取りに行ったんだよな?」と言う。この発言から、校長の持つ権力に対する批判が始まる。しばらくして、そこにマフムットとユセフが到着する。そして、保健室の中からは、携帯で電話している校長の怒鳴り声が聞こえてくる。「除雪車がひっくり返ったとは どういうことだ? 生徒が病気なんだ! 一体どうすりゃいい?! ずっと前に救急車を呼んだのに、生徒を死なせる気か?!」。校長はイライラして外に出て来ると、「セリム、1本くれ」と、自ら禁止令を破る。そして、目の前で立っているマフムットに向かって、「なぜ 生徒にシャワーを使わせる?」と責める(3枚目の写真)〔昨夜だとも 何も言わない一般論なので、この質問に答えられる訳がない〕。「何のシャワーです?」。「ごまかすな! 勝手なことをして! なぜ、使わせた?!」。「わしは、何もしてません」。ここで、ケナンが、「校長、彼は夜の当番ではありません。それはアキフの仕事です」と言う〔なら、なぜマフムットを呼びに行かせる前に、そう言わなかったのか?〕。立場のなくなった校長は、マフムットに 「暖房は直ったか?」と訊く。「作業中です。配管工を呼びました」。「それで?」。「月曜まで来れません」。「仕事に戻れ。アキフをここに寄こせ」。
  
  
  

シャワーの監督生が、「先生、授業に戻ってもいいですか?」と訊く。校長は、監督生ではなく、ハムザに向かって「昨夜罰せられた生徒を、ここに来させろ」と言い、ハムザは、監督生に 「2人の名は?」と訊く。監督生は 「先生、あいつらのことは良く知ってます」と答える。それを聞いた校長は、監督生に 「授業に行け!」と怒鳴る。「はい、2人を来させます」。「返事なんかするな! このガキ! やっかい者!」〔何という校長!〕。それからしばらくして、昨夕、メモと一緒に冷水の罰を受けた2人が保健室に入って来る。校長は、2人に対し 「罰せられたのは、お前たちか?」と訊く。「はい、先生」。「何があった?」。「僕がボウルを使おうとしたら、メフメットが使っていました。使わせてくれと頼んでも、断わったので、もう一度頼みました」(1枚目の写真)。あまりに抽象的な答えに、校長は、「お前の友だちに何があった?」とストレートに訊く。もう一人の生徒が、「僕たち、知りません。メフメットは今朝病気でした」と答える。怒りっぽい校長は、「嘘付くな!」と怒る。最初の生徒は 「メフメットは今朝、眠ってました」と言う。校長:「彼が夜戻った時、起きなかったのか?」。2人目:「どこからですか?」〔夜、戻ったことも知らない〕。この2人の言葉で、罰のことは別として、2人が 夜に何が起きたか知らないことがはっきりする。ここから、教師 4人の言い争いが始まる。校長→ハムザ:「君は、何で罰なんか与えたんだ?」。ハムザ→校長とケナン:「私が何をした? ケナンは生徒を不法に連れ込んでもOKなのに、私だけ有罪なのか?」(2枚目の写真)。ケナン→ハムザ:「生徒たちを罰しておいて、私を非難するのか?」(3枚目の写真)。ハムザ→ケナン:「ああ、罰したさ。だが、寒いだけで昏睡状態になるのか?」。ケナン→ハムザ:「もし、生徒が病気だと分かったら、医者を呼ぶべきだったんだ!」。セリム:「もし、私が状況を把握してたら、医者に連れてったな」(4枚目の写真)〔朝、ユスフに、「お前の友だちを保健室に連き、薬をくれる人を探せ。その後で、クラスだ」と言ったのはセリム〕。ケナン→セリム:「知りたいか? その子は夜中から病気だった。なぜ、連れてかなかった?」。セリム:「やったさ。校長の所に連れてった。だが、彼は、ここに行くよう命じた」〔校長は、最初、「保健室に連れて行って、鎮痛剤を与えるんだ」と言ったが、すぐに「ムルタザに電話して (病院に)連れて行かせろ」と言った〕。校長は、すぐに、「違うぞ。私は、ムルタザを呼べと言った」と、正しく訂正する。しかし、セリムは校長が余程嫌いなのか、「やったさ。だけど、ムルタザは、あんたがチーズ欲しさに村に行かせた」と非難。校長は 「何だと? 私が?」と怒り、セリムは、すかさず、「そうさ」とつっぱねる。校長は、「彼は村に行くつもりだった。だから、チーズを持って来てくれと頼んだんだ」と、正当性を主張する。
  
  
  
  

いよいよ、アキフが保健室に現れる。校長は さっそく、「君は、ボイラー室で、この少年にシャワーを浴びさせたのか?」と訊く。「はい、校長」。「なぜだ?」。「彼らは、不潔だからと言ったので、シャワーを使わせました」(1枚目の写真)「不潔なまま歩き回らせるのは罪だと思いましたから」。「彼らだと? 他に誰がいた?」。「2人でした」。校長は、冷水の罰を受けた2人を指し、「このうちの1人か?」と訊く。「いいえ、もっと小柄な少年でした」。全員の驚いた目がユセフに集まる(2枚目の写真)。
  
  

ユセフは、ボイラー室まで連れて行かれ、すぐ後に続く校長に、うつむいたまま淡々と説明する。「僕たちは、走ってここまで来ました。ドアをノックした時、アキフは寝ていました。メモはちゃんとシャワーを浴びていませんでした」(1枚目の写真)「シャワーを浴びたいと頼みました。アキフはノーと言いました。僕たち 不潔だからって頼みました。アキフは、面倒を起こすなら放り出すぞと言いました」(2枚目の写真)「そこで、タバコを1箱あげたら中に入れてくれました」。アキフは 「本当じゃありません」と否定するが、誰も信じない。「それから?」。「僕たち、ここに来て、シャワーを浴びました。遊び半分でした。メモは、僕からシャワーヘッドを取ろうとし、僕は取らせませんでした。僕の手が鉄の何かに当たり、落ちました。そしたら、パイプが壊れ、メモの頭に当たりました」(3枚目の写真)。この時点で、ユセフは涙が止まらない。ハムザが背後にあったカーテンをめくると、壊れて垂れ下がったパイプが見える(4枚目の写真、矢印)〔これが頭に当たれば、急性硬膜下血腫になって当然だろう〕〔このカーテンは、以前、ユセフがマフムットを呼びに来た時に見ていた物〕。校長は、「それから?」と催促する。「僕たち、部屋の窓から降りる時に使ったシーツを登ろうとしました。僕は登れましたが、メモはできませんでした。だから、僕は、ドアを叩いて、中に入れてもらえと言いました」あらすじの4節目の、“ドアをドンドン叩く音” がした後で “ユスフが窓を開けて下を見ている” シーンは、この直後の場面だった〕。ここで。ケナンが口を挟む。「その後は分かってる」。
  
  
  
  

全員が保健室に戻る。校長が、静かに、「なぜ、真夜中にシャワーを浴びたいと思ったんだ?」と尋ねると、ユスフは 「ユスフが お漏らししたからです」と答える。①冷水罰と夜尿の間に直接的な因果関係はないので、ハムザに責任はない。②ドアを叩いていたメモがふらついていたのなら、ケナンはもっと原因を確かめるべきだった、③セリムは、朝、メモを保健室に連れて行かせたのは、その時点で救急車を呼ぶほどの重症とは判定できなかったろうから、正しい判断だった、④保健室に看護婦を常駐させていたらこのような事態は起きなかったので、校長の責任は重い、⑤最大の “悪人” は、メモが頭に強い打撃を受けたことを隠していたユスフ。ある権威ある医学サイトには、「重症で、頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔気など)や意識障害を認めている場合〔メモと同じ〕、出血量が増量し続けている場合などには緊急手術を行います」とある。緊急性を要する事態なのに、半日以上治療を遅らせたのは、雪のせいではなく、ユスフの “意図的な事実隠蔽” のせい。ここで、ようやく救急車が到着し、隊員によってメモがマットレスごとストレッチャーに移される(1枚目の写真)。ユスフを除く全員がストレッチャーと一緒に保健室から出て行くが、ユスフだけは中に残り、窓から外の様子を窺っている(2枚目の写真)。恥ずかしくて合わせる顔がないからか? 救急車は出て行き、集まっていた大勢の生徒達も保健室の前から去って行き、ユスフは1人保健室に取り残される。場面は、映画の冒頭と同じシャワー室に。1週間に一度なので、1週間後のシーンだろう。そこで温水を頭から被っているユスフの頭髪には、中央に “最も重い罰” として、「頭髪剃り」が施されている〔放校にはならなかった〕(3枚目の写真)。
  
  
  

  S の先頭に戻る   の先頭に戻る       の先頭に戻る
  トルコ の先頭に戻る            2020年代前半 の先頭に戻る